麹室再建にみえる古式伝承

麹室を再建された澤田酒造さん訪問

新聞やお酒関係の各メディア(当サイトでも)で報道されましたように、2020年11月の火災で、澤田酒造さんの麹室が全焼してしましました。
現在では新しい麹室が完成し、麹造りを再開されている澤田酒造さんを訪問し、社長の澤田 薫さんに新しい麹室を案内して頂き、澤田酒造の酒造りのこだわりについてもお話を聞かせて頂きました。

澤田酒造新しい麹室外観

白木が真新しい 新しい麹室

火災は麹室の中に保温の為に設置されている電熱線のショートにより発火し発生。約1時間で鎮火したものの、麹室は写真のように全焼してしまいました。しかし当日無風だったことと、麹室はコンクリート造りの新蔵の内部に設置され
ていたので、仕込み蔵などは類焼を免れることができたのが幸いでした。

澤田酒造麹室火災2021年11月

麹室火災直後の様子
(澤田酒造さんTwitterより転用)

麹造りは酒造りのなかでも大切と言われますが、澤田酒造にとって麹造りはアイデンティティと言っても良い、最もこだわりの工程だそうです。なので、麹室とその道具を失ってしまい、一時は再建を諦めようかとも考えたそうですが、麹造りに協力いただいた東海4蔵の蔵元さんや、3年前にやはり酒蔵の火災に遭われた山陽盃酒造の壺阪さんほか、再建募金など多くの方々の支援を頂いたことを励みに再建に取り組まれ、今年8月下旬についに新しい麹室が完成し、今シーズンより麹造りを再開されました。私が訪れた時には未だ試験でちょうど一度目の麹造りを終わられたところでした。

再建された真新しい麹室を、澤田社長に案内して頂きました。

火災前と同じ新蔵の2階に木造の麹室を作りで有名な日東工業所の設計施工による、総木造りの真新しい麹室があります。
麹室の前には少しスペースがあり、写真に見えるように、隣の蔵との間には防火扉があります。このおかげもあって隣の木造蔵に火が移らずに済んだそうです。釜場など火の気を使うところをコンクリート造りにしていた先人の配慮が生きました。

隣の蔵への延焼を防いだ防火扉

隣の蔵への延焼を防いだ防火扉

隣の蔵は写真の様に江戸時代からの酒蔵そのもので、現在ではとても貴重な建物です。

江戸時代から続く仕込み蔵

江戸時代から続く仕込み蔵

麹室内部を説明いただきました

最近では麹室も内部をステンレスや樹脂の壁にする事が多い様です。この方が雑菌の繁殖を容易にコントロールできるので合理的なのですが、木の調湿効果など昔から良いと伝わるものを取り入れる為に澤田酒造さんではあえて昔ながらの木造にしています。

麹室の中は4室に分かれており、一番大きい部屋の真ん中にはこれも木造の大きな麹台があります。入り口から向かって左側は仕切れる様になっており、麹蓋を置く様になっています。

麹室内部の様子(中央は麹台)

麹室内部の様子(中央は麹台)

入り口から向かって右側奥が吟醸用の部屋になっていて、温度管理が更に緻密にできる様に小さな部屋になっています。

吟醸用の部屋

吟醸用の部屋

その隣、出口に近い側に枯らし用の部屋があります。ここで作った麹を乾燥させます。

枯し部屋

枯し部屋

せっかく新しく麹室を新しく作るチャンスを得たのだから、限られたスペースの中、麹造りでやりたいことが全てできる様に工夫したのだそうです。

 

澤田酒造の酒造りのこだわり

澤田酒造の蔵へ伺ってまず一番に目につくのが、和釜と木製の大きな甑(こしき)でしょう。和釜を使ってお米を蒸す蔵元自体かなり少なくなっていますが、木製の甑を今でも使用している蔵では灘の剣菱酒造さんが有名ですが、甑のメンテナンスが大変な上、作れる職人さんもごく僅かで、木造の甑を使用する蔵は今ではもうほとんどありません。
それでも澤田酒造さんが木製の甑を使用するのは、木の方が内部で結露したりせず、麹造りに優れた「外硬内軟」の蒸米ができるからです。

木製甑と麹蓋

木製甑と麹蓋

また、麹造りは麹蓋での作りにこだわります。(写真手前と一番奥に積んである箱状のもの。後ろは木製の甑)手作りの麹でも一般的には麹台や大箱麹で作る事が多いのですが、麹蓋は、麹を少量ずつ盛り分けて手入れすることで、温度や湿度をきめ細かく管理できます。その一方、この作り方では夜間の作業や麹蓋の洗浄など、大変手間が掛かる為、他の蔵では麹蓋を使う場合でも吟醸酒などに限る事が多いなか、澤田酒造さんでは普通酒も全て麹蓋で作ります。先の麹室の写真でも、麹蓋が壁際に並べて置ける様に台が設えてあったのがわかります。

この大切な麹蓋も火災で失われてしまったそうですが、澤田酒造のアイデンティティはと思い直した時に、やはり麹蓋でつくる麹であると、新たに新調しました。しかし、全部で300枚も必要な為、半分は他の蔵元さんで使用しなくなったものを分けていただいて、揃えたそうです。

古式伝承と革新

澤田酒造さんの酒造りは「古式伝承」を大切にしています。その一方で、明治時代には速醸酛の開発に携わるなど、先取の気質で酒造りに取り組んできた歴史もあります。今回の麹室再建では、木造の麹室で麹蓋で全ての麹をつくる。そして木製甑による蒸し。など、昔から良いと伝わる道具と手法で手間をかけて造る酒造りが、澤田酒造さんにとって、いま大切な、守るべきものだと考えてられる事が良くわかりました。

その他ちょい足し

澤田酒造さんの蔵の中庭に面したところに水場があります。ここには江戸時代から専用の水道を、2キロメートルほど離れた山の湧水から引いています。この水は軟水で、海岸近くにある井戸の水は硬水なので、これらを使い分けて仕込みに使っているそうです。

澤田酒造仕込み水

澤田酒造仕込み水

この中庭では、ちょうど梅干しの天日干しをしていました。今年は梅が大変豊作だったそう。

梅干し天日干し

澤田酒造店舗

澤田酒造店舗

(Text:山路 日出夫)

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この記事の筆者

日本ツーリズム運営局(オフィスイチヤマ)

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