日本酒地理的表示「GI信濃大町」が指定されました。
GI信濃信濃大町
日本酒の地理的表示(GI認証)の14例目として、「信濃大町」が、令和5年6月30日に指定されました。
酒質の特性
「GI長野」の清酒は、雑味が少なく濃厚な味わい、きれいで穏やかな香りの調和といった特性があり、なかでも「GI信濃大町」の清酒は米由来の特徴的な香味が際立った酒です。
その色調は、無色又は淡いゴールドのような透明感のある色で、香りは、黄色いリンゴ・バナナ・メロン・洋梨といった熟した黄色い果物を思わせる香りの中に、炊きたてのご飯・つきたての餅・上新粉のような米由来のふくよかな香りがしっかりと感じられるものとなっています。
味わいは、アルコールの切れが良いだけでなく、コクを構成する苦味をもつことから、長野県大町及周辺で多く採取できるタラの芽・コシアブラなどの山菜やクレソン等の、旨味を伴った苦味を持つ香味野菜などや豚肉との相性がとても良く、食中酒に適した酒質である。
気候風土
信濃大町地域(南に隣接する松川村を含む)は、長野県の北西部、松本盆地の北端に位置し、その西部一帯には3,000m級の山々が連なる北アルプス連邦、市街地東側にも1,000m級の山々が連なる、山に囲まれた地域です。
信濃大町地域は、昼夜の寒暖の差が大きく、8月の日中の平均最高気温は28℃ 前後(平年)である一方で、平均最低気温は17~18℃(平年)と1日のうちに10℃近く変化します。この寒暖差により、豊満で登熟が良好な、酒造りに適した米が収穫でき、また、酒造りの季節である1月から2月にかけて平均気温が0℃を下回ることから、雑菌が生育しにくく、醸造工程における発酵の低温管理に適しています。
この地域の酒造り及び原料となる米の生産において最も重要な特徴は、北アルプスからの雪解け水を中心として豊富な水を確保できることです。
こうした水は、清冽ではあるが水温が低いため水稲の生育には適していませんが、青木湖等の湧水は湖で太陽熱によって温められ、農具川となって大町地域に流れ出る頃には水稲の生育に非常に適した温度になります。こうした自然環境から信濃大町地域は、弥生時代から米作の適地として繁栄してきました。
しかし篭川・鹿島川水系に流れ込む水は水温が低く、以前は米作には用いられていませんでしたが、戦後、この地域西部で「ぬるめ」と呼ばれる幅約16~18m、水深約10cmの水路にで水温を上げてから水田に供給することが可能となりました。
こうした低水温の豊富な水は、酷暑においても水温が安定していることから、毎年の気候変化に関わらず水田の温度を一定に保ち、高温による稲の発育障害を防止するとともに健全な根張りを助けるなど、この地域の米作に欠かせないもので、米由来の旨味をしっかり感じられる酒質の実現の一因となっています。
醸造用水についても、北アルプスをはじめとする山々の雪解け水を使用しています。日本酒の醸造には低温で清冽な水が適していることから、従来から、大町市北部にある標高約800mの居谷里湿原(いやりしつげん)より湧き出ている「女水(おんなみず)」と呼ばれる軟水が用いられてきました。
後立山連峰の標高約1,560m地点において黒部ダムの建設工事が行われたことにより、破砕帯が露出し、そこから「氷筍水(ひょうじゅんすい)」と呼ばれる中硬水も採水することが可能となったことから、近年では、この「氷筍水」も酒造りに用いられるようになっています。
これらの醸造用水が、この地域の米由来の特徴的な香味が際立った酒質、旨味・ 甘み・苦味のバランスの実現を支えています。
歴史と人的要因
この地域には、古くから新潟県糸魚川市など日本海側で生産された塩を内陸に運ぶための道である千国街道(ちくにかいどう)が通っていました。江戸時代になると塩以外の産物の交易も増加し、大町宿等の宿場町が整備され、この地域での酒造りが盛んになりました。
この酒造りに携わっていたとされるのが、同じ千国街道が通じている大町市の北方、新潟県との県境に近い現在の長野県北安曇郡小谷村の人(後に「小谷杜氏おたりとうじ」と呼ばれました)です。小谷村は、山間部で冬季は豪雪となるため、米作りが終わった後、雪が積もる前に、千国街道を通って移動できるこの大町地域で酒造りに従事することは、出稼ぎの選択肢の一つでした。
この地域の酒造りは、高地であることも含めて、地域の特性を良く理解したこれらの人々に担われていたため、作業を効率化、省力化することなく、実直、丁寧な手作業による少量の酒造りが長年続けられてきました。
現在でも、地域内の酒蔵はこしきで全てのお米を蒸し、麹も「盛り」以降の工程を麹室において100kg以下の少量で行うという、丁寧な手作業による酒造りを継承しています。
また、この地域では、使用する酒米について、地域の酒蔵全てが「地域の水、地域の米」を生かした酒造りを実現するために、農家との緊密な協調・協力関係を築き上げ、水田まで特定できる徹底した契約栽培を取り入れていることが特徴です。
原料及び製法
原料としては、原料米及び米こうじに、長野県大町市及び隣接する長野県北安曇郡松川村のうち、業務実施要領で特定した水田で収穫された3等以上に格付けされたもの米のみを用いていること。
使用される米及び米こうじの原料米は美山錦、金紋錦、山惠錦であること。
産地の範囲内で採取した水のみを用いていること。
酒税法で定められた「清酒」の原料を用いていること。ただし、原料のうちアルコールは、米(こうじ米を含む。)の重量の100分の10 を超えない量で用いるル以外は用いることができない。
製法としては、産地の範囲内において製造・貯蔵・容器詰すること。また、米及び米こうじに用いる米は全てこしきで蒸したものを使用すると共に、米麹は、産地の範囲内に設置された麹室で製麹 (せいきく)されたものを 用いること。また、製麹工程では「盛り」以降の工程を1つあたりの重量が100kg以下の麹床(こうじどこ)、麹箱こうじばこ又は麹蓋こうじぶたを用いて行う製麹に限る。
管理機関
管理機関の名称:GI信濃大町管理協議会
住所:長野県大町市大町2512-1 株式会社薄井商店 気付
連絡方法:電話番号 0261-22-0007
地理的表示「信濃大町」を使用するためには、これを使用する清酒の製造場から出荷するまでに、各規定について管理機関が作成する業務実施要領に基づいて確認を受けなければなりません
(Text : 山路 日出夫)
この記事の筆者
日本ツーリズム運営局(オフィスイチヤマ)
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