金賞受賞の浪花酒造で酒蔵見学
浪花酒造へは南海電車で
南海難波駅から和歌山を結ぶ、特急サザンに乗って約45分。
南海尾崎駅から徒歩で約5分のところに、1716年創業、300年続く老舗の酒蔵、浪花酒造があります。Facebookから連絡を取らせていただいたところ、蔵の見学もできますのでぜひどうぞ、とありがたいお返事をいただき、さっそく訪問しました。
入口。新酒ができたことを知らせるための杉玉が飾られています。
門をくぐると、真っ先に目に入るのが、この大きなタンク。
「これは一体何に使うのだろう?」とワクワクしながら中へ。
さっそく、代表取締役の成子和弘さん直々に、蔵の中を案内してもらいました。
見学前に私が日本酒についてどれくらい知識があるか質問されました。見学する人の知識に合わせて、話す内容を変えてくださるそう。まだまだ勉強中であることを正直に伝え、基本的なところから説明していただけることに。
まず紹介していただいたのが、こちらの大きな井戸。
ここから井戸水を汲み上げ、ポンプを使って入り口で見た大きなタンクに運ぶ、というわけです。
貼り紙には漢字の「井戸」だけでなく、英語とハングルも併記。
というのも、浪花酒造は同じ南海電鉄の関西国際空港から車や電車で約20分。国内外のお客様が、観光で足を運びやすい立地なのです。
こちらは蒸米機。一度に600キログラムから1トンのお米を蒸すことができます。杜氏の方がお米や水に合わせて蒸す時間を管理しています。
蒸したお米は、こちらのエスカレーターのような機械で2階へ運ばれていきます。
蔵の2階を見学。見上げるとそこにあるのは、しっかりと屋根を支える、大きな梁(はり)。
こちらの蔵は、300年前の創業からずっと、戦争も震災も乗り越えて浪花酒造の酒造りを支えています。戦禍を免れた蔵の、堂々とした佇まいに圧倒されます。
また、一本一本の梁の形自体は少し曲がっていたり、いびつだったりするのにもかかわらず、まっすぐとした屋根へと組み上げられていおり、当時の職人さんたちが持つ技術力の高さがうかがえます。
継ぎ目のない一本の木。いったい、どうやってこの木をこの場所まで運んできたのでしょうか。想像がますます膨らみます。
今回見学したのは、お酒造りをお休みしている6月。シーズンオフでの見学でもお客さまが楽しめるよう、要所要所に大きな写真が飾られています。大きな文字での説明も嬉しいですね。酒造りのシーズンであれば、写真ではなく実際に作業しているところを見ることができます。実際蒸したお米を広げたところまで見学させてくれる蔵は少ないそうです。
麹造りをするお部屋。芳醇にするか、淡麗にするか……お酒の味が決まる、とても大切な工程のひとつです。
酒母室。酵母は温度管理が大切です。こちらの冷蔵庫では室内が5℃に保たれています。
麹自体には、デンプンを糖に変える=甘くする働きしかもっていません。それなのにお酒ができるのは、麹のつくり出す糖を食べてアルコールに変える酵母のおかげ。酵母にも香り高いものや酸味の強いもの、すっきりした味わいになるものと種類がたくさんあり、それによって、同じお米でもお酒の味が変わってきます。
この小さい瓶に入った酵母が、タンクの中で1時間に1個ずつ分裂を繰り返し、24時間でなんと1700万にまで増えるなんて不思議です。
そしてその酵母が発見されたのは、約200年前に顕微鏡が発明されてから。酵母の大きさは1mmの100分の1なので、もちろん目には見えません。
しかしお酒自体は紀元前の頃からずっと造られてきました。そして浪花酒造も、酵母が発見される前からお酒を造り続けています。目に見えない酵母を使ってお酒を造ってきた昔の人の知恵に頭の下がる思いです。
再び1階へ。
たくさんの大きなタンクが並びます。
浪花酒造では、1升瓶で年間約25,000本のお酒を造り、それを1年かけて出荷していきます。これらの作業を、たった6人で行っているそうです。
ここで発酵が終わったお酒は、ホースを通して搾り機へと送られます。
搾り機は、上から押すタイプと、横から押すタイプの2種類があります。
昭和40年代からある、横から押すタイプの搾り機。
上から押すタイプの搾り機。
こちらはなんと昭和40年以前から活躍しているそうです。
登録有形文化財の成子家住宅
酒蔵を見学した後は、お隣にあるご自宅「成子家住宅」も見せていただけることになりました。
大正時代に建てられ、文化庁の登録有形文化財に選ばれています。
青々とした木々がまぶしい庭園。どこからどうやって運んできたのか、大きな石にも注目。
和室。団体の方が来られたときは、こちらで酒造りのビデオ鑑賞をします。
趣たっぷり、雅な雰囲気の茶室。
そしてこちらには和室だけでなく、なんと洋室もあります。
昔ながらの酒蔵に突如現れた、めくるめく大正浪漫の世界。思わずうっとりしてしまいそうです。
玄関にはかわいらしいウサギが。
ウサギと言えば月ということで、「ツキがつくように」というゲン担ぎの意味が込められているそうです。
見学のあとは、直売所でお待ちかねの試飲タイム。
「純米辛口」は、南大阪の名産である泉州の水なす漬をはじめ、さっぱりした和食によく合いそうな、スッキリした味わいでした。またラッキーなことに「金賞受賞酒」も試飲させていただきました。雑味がなく、飲みやすい! ぐいぐい飲んでしまいそうです。おそらく、日本酒が苦手だという人は、あまり質の良くないお酒に当たってしまったのかもしれないとさえ思えてきます。良いお酒に巡り会えれば、きっと価値観も変わるはず。
直売店でしか買えない、蔵出し生原酒をお土産に購入。
生酒によるフレッシュな匂いと味わい。冷蔵庫に入れて、毎日晩酌を楽しんでいます。
海岸のすぐ側で真水が湧くという不思議清水大師
せっかくなので、浪花酒造の仕込みに使われている和泉葛城山系の伏流水が湧いている、清水大師も訪れました。
海岸のすぐ側で真水が湧くという不思議な場所。地域の大切な水として親しまれています。
こちらの海は遊歩道が整備されているところもあり、潮風に吹かれながら散策を楽しめます。また同じ阪南市には、少し足を伸ばせば「ぴちぴちビーチ」という海水浴場も。この夏、海と日本酒を満喫する一日はいかがでしょうか。
浪花酒造では、土日も含めて見学を随時受け付け中。
お酒が好きな人はもちろん、建築が好きな人にもおすすめできるスポットです。
(Text:牧 美帆)
この記事の筆者
日本ツーリズム運営局(オフィスイチヤマ)
日本ツーリズムは日本酒に対する潜在的な需要を発掘すると共に、日本各地の蔵元さんとユーザーをつなぎ、日本酒で地方を元気に、そして日本を元気にして行くと共に、世界へ日本酒の魅力を発信していくことを目指して行きます。
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