いよいよ今年の酒造り (麹づくり〜上槽まで)
西海酒造では自家精米したお米で、12月の半ば頃から仕込みに掛かります
まず精米したお米で麹をつくり、酛立て、仕込みの順番で行います。西海酒造さんは、11月末から麹造りに取り掛かり、新年にかけて仕込み作業を行なっています。その為元旦も朝からお米を蒸して、仕込み作業を行うそうです。
精米したお米は枯らしといって、暫く倉庫で寝かし品温を下げます。これは精米する際に、米が精米機の中のロール(砥石)で強く擦られる為に熱を持っているので、冷たい仕込み水との温度差が大きいと米が割れてしまう為です。
今年は米の刈り取りが台風の影響で遅くなった為、枯らしの時間が少し短くなってしまったとの事。枯らしの期間の長さで水分の含有量も変わるので、元々の米の水分含有量と合わせて原料処理の手順を調整します。
原料処理(原料米の下ごしらえ)
麹米にも掛け米にも蒸米を使用しますが、特に良い麹米を作る為には、外硬内軟の蒸米にする必要があります。その為に、上手に蒸しあがるように精米したお米を、糠を落とす洗米の後、水に浸して吸水(浸漬)させます。このとき原料の米の作柄や枯らし期間によって吸水の歩合が異なってきます。また、仕込み水の水温によっても変わってくるので、これらを勘案して米の洗米から浸漬の時間を杜氏さんは決めています。浸漬の時間は非常にデリケートなのでストップウォッチで時間を計り、時間になるとタライから米を引き上げ水を切ります。
蒸し・放冷
浸漬を終えた米は甑で蒸します。西海酒造さんでは和釜で起こした蒸気を用いています。
蒸し上がったお米は甑から掘り出し、放冷機で蒸米をほぐしながら冷まし、狙いの品温まで下がったら麹室へ引き込み一晩寝かします。
引き込み〜製麴
一晩寝かせた蒸米は、床揉みをして蒸米をほぐし、種麹を振り品温を管理しながら保温します。後で述べる様に、通常の切り盛り作業と違う麹造りの方法を行いますので、引き込みから床揉みまでの時間も通常より長く取って、蒸米を乾燥させています。
今回は筆者も床揉み作業を手伝わせていただきましたが、その為、写真を撮ることが出来ませんでした。(室の中の温度は33℃もあるので、そもそもカメラは持ち込んだ途端、温度差でレンズが曇って使い物になりませんでしたが…)
通常の床揉みは引き込んでからの時間が短いので、蒸米の品温が高く熱いので中々狙いの品温(お米の種類にも依ますが大体30℃前後)まで下がりません。また蒸米が粘ってダマになる為、床揉み作業は重労働です。しかし、西海酒造さんの方法は蒸米が乾燥しているので随分と楽です。が、やはり腰をかがめて作業する為、腰が痛くなるので重労働には違いありません。
西海酒造さんでは上田酒造綜合研究所の上田護國(もりくに)先生の指導による、通称タライ麹で麹を作ります。その為、上に書きました様に最初に蒸米を十分乾かしてから種麹をふり、品温も通常より高い44℃〜45℃になるようにコントロールして麹を育てます。参考までに、西海酒造さんでは麹米は全て山田錦を使用しています。
床揉み後、通常より長く約15時間ほど置き蒸米の米をほぐす、切り返しを行い、時間をおかず引き続き盛りを行います。その際に乾燥しすぎないようにタライに盛り、突きは破精(はぜ)を狙って麹を育てます。
酛立て
今回残念ながら、酛立ての作業は日程が合わず立ち会うことが出来ませんでした。
酛立ては乳酸菌の力を借り優良な酵母を沢山培養して、仕込みの元となる酒母(文字通りお酒のお母さん)をつくる工程です。西海酒造さんでは一般的な速醸元という純粋培養の乳酸菌を用いる方法で酒母をつくります。その他に生酛造りや、その一つである山廃仕込みを行う蔵元さんもあります。
仕込み
西海酒造さんでは今シーズンは合計5本の仕込みを計画されており、内3本を12月中に仕込みました。内訳は中桶で純米大吟醸と大吟醸が一本ずつと大桶で本醸造です。残り2本はワイン酵母を用いたものを最後に醸造します。仕込みとは、酒母に麹米と添え米と仕込み水を通常4日間で3回に分けて加えて(三段仕込み)、酵母の発酵を促し醪を造ってゆく工程です。
今シーズンは暖冬で、夜でも中々10℃を下回らない日が続いたため、特に大吟醸酒の仕込みには厳しい環境でした。仕込みタンクには冷水チューブが巻いてあり、冷凍機で冷やした水を流して何とか醪の温度を下げますが、どうしても下がらない場合は氷を入れるなどして目標の7℃以下まで下げ、ゆっくりと醪を発酵させてゆきます。
上槽
最初の仕込みから約4週間経ち、本醸造の大桶の上槽に立ち会わせて頂きました。仕込みタンクの呑み口から醪をポンプで汲み出し、搾り機に掛けます。
西海酒造さんでは、佐瀬式の一種で姫路の八重垣酒造さんが考案した八重垣式の搾り機を使用しています。写真の様に、アルミの圧搾板の間に専用の酒袋が挟んであり、ここに醪を注入してゆきます。
下の袋から順に注入してゆくと、圧搾板と醪の自重で醪の入った酒袋から液体が染み出しきて、これが清酒になります。全ての酒袋に醪が注入されて最初に槽口(ふなくち)から出てくるのは荒走りと呼ばれ、末だ少し濁っており荒い味わいです。暫くすると濁りが殆ど無くなった液体が出てきますが、これは中取りとか中汲みと呼ばれ、味わいも落ち着いた物になりフレッシュな香味のお酒になっています。
このまま圧搾機に掛けて一晩自重で搾ります。ここまでで凡そ5割くらいの量が搾れます。翌日は酒袋の上に圧搾用の木枠を載せて一日その重さで搾ったのち、更に翌日、油圧を上部から掛け一日掛けて搾ります。この後半の重さや圧力を掛けて搾る部分をこちらでは責めと呼んでいるそうです。ヤブタ式自動圧搾機だと1日で搾れてしまいますが、佐瀬式では搾るだけで3日間も掛かります。
こうして搾られたお酒は貯蔵用のタンクに移され、約3ヶ月間、火入れまで熟成させます。
(Text:山路日出夫)
この記事の筆者
日本ツーリズム運営局(オフィスイチヤマ)
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