【天野酒】西條合資会社・金剛寺訪問記
室町時代末期から大名たちに愛されてきたお酒、僧坊酒
大阪に、室町時代末期から大名たちに愛されてきたお酒があるのをご存知でしょうか。そのお酒の名は「僧房酒」。室町時代頃に各地の寺院で僧侶の手により造られ、現在の酒の元となったという、日本酒の歴史を語る上で外せないものです。中でも一級品とされた僧房酒の一つのが、大阪府河内長野市にある、天野山金剛寺の天野酒。約50年前にこの僧房酒を現代に蘇らせ、今も大阪・奥河内で造り続けているのが、同じく河内長野市で1718年に創業した西條合資会社です。
こちらが豊臣秀吉も愛飲したとされる僧房酒。秀吉が好きだったと言われる黄金色に輝いています。僧侶のイメージから何となくピリッとした辛口のお酒を連想してしまいそうですが、超甘口、柔らかい味わいのお酒です。
僧坊酒の蔵元、西條合資会社のある河内長野へ
西條合資会社がある河内長野市までは、南海難波駅から急行で約30分。大阪の都心から十分日帰りできる距離にあります。蔵には駐車場もあるので車でも行くことができますが、試飲もできる公共交通機関のご利用がおすすめです。
河内長野駅には特急「こうや」「りんかい」も止まります。プラス520円かかりますが、観光気分で乗ってみるのも良いかもしれません。
蔵を訪れる前に、金剛寺も訪れてみました
金剛寺は、河内長野駅から南海バスで16分の場所にあります。
森の中にあるバス停。屋根付きなのがありがたいです。
河内長野市はサイクリングにも力を入れており、駅のそばにある施設「ノバティながの」でレンタサイクルの貸し出しも行っています。1日500円とリーズナブル。この日はあいにくの天気のために断念しましたが、天気がよければ自転車で訪れるのもおすすめ。電動アシスト自転車を借りられるので、体力がなくても心配は無用です。
重要文化財のひとつ、金剛寺の楼門。
金剛寺を訪れた日は、まだ新型コロナウイルスの影響で拝観が中止されていたため、周囲を散策しました。
※2020年6月1日から拝観を再開しています。
水掛三尊像
敷地内を流れる天野川
緑に映える朱色の橋
この金剛寺には、南北朝時代に南朝の後村上天皇が移り住み、6年に渡り滞在しました。また、北朝の光厳上皇、光明上皇、崇光上皇が幽閉されていた地でもあります。彼らはどのような想いでこの天野川を眺めていたのでしょうか……。
西條合資会社の酒蔵を訪れる
さて散策を楽しんだあとは、バスで河内長野駅までもどり、いざ酒蔵へ。
河内長野駅から徒歩5分、ふらりと訪れやすい場所にあります。
風情あふれる町並みを楽しみながら店舗へ。河内長野市は2009年「石畳と淡い街灯まちづくり支援事業」モデル地区のひとつとして採択され、石畳が整備されました。
河内長野駅から西條合資会社に向かう途中にある長野神社
杉玉製作をしたときにはお清めにお神酒として新酒を使っているとのことです。
こちらが店舗。軒先に飾られている、丸い杉玉が目を引きます。たくさんの杉玉が地域の人たちの協力で作られ、毎年11月の新酒の時期には青々とした姿で並びます。
店舗を入って左手には、大きな冷蔵庫。ずらりと並んでいるのは、ここでしか買えない蔵限定の生原酒。少し後ろがスカスカに見えるのは、ちょうどハーレーに乗った団体の方が12名ほど訪れて、お酒を買っていかれたからとのことでした。
冷蔵庫の上にある甘酒は、特Aランクの山田錦のうち、お酒にできなかった部分をふんだんに使ったもの。ノンアルコールなので、車で来られた方も試飲できます。
また冷蔵庫にはお酒だけではなく、名物「甘酒サイダー」や、ゆず、塩、プレーンと4種類のサイダーも並びます。サイクリングやハイキングを楽しむお客様が、よく買っていかれるそうです。
店舗にはサイクリングを愛する有志で作成されたという、奥河内サイクリングマップが置かれていました。金剛寺方面コースも紹介されています。河内長野市のWebサイトhttps://www.city.kawachinagano.lg.jp/soshiki/16/25969.html)からもダウンロードできます。
また、店舗にはお酒以外にも名物がたくさん並んでいます。
中でも酒粕を使った焼きねぎ味噌は2010年に発売され、10万本もの売り上げを達成したヒット商品。2018年からは、新たに「生姜の酒煮」も加わりました。
こちらはファミリー向けのお土産に重宝する、酒米粉を使ったバウムクーヘン。アルコールが含まれていないということで、匂いも、食べたときもアルコール独特の風味をほとんど感じません。ふんわりと優しい甘みで、小さいお子様にもおすすめ。
十代目蔵主の西條陽三さんにお話をうかがう
当日は、十代目蔵主の西條陽三さんに少しお話をうかがうことができました。当日、西條さんが着用していたのは、スポーツの撮影などに使われるアクションカメラ「GoPro」のTシャツ。新しいものが好きという蔵主は、2009年にブログ、2012年にFacebookページの運用を始めたり、Instagramも更新したりと積極的に新しい宣伝手法を取り入れています。しかし、酒造りについてはむしろ真逆で、流行に惑わされることなく、昔からの味を守り続けているのです。
「たとえば紡績会社から化粧品、呉服屋から百貨店など、一般的な企業は顧客が今何を求めているかを考え、それに合わせて新規に別事業を作り生き残りを図ります。しかし日本酒は『百年、二百年と変わらないものを作り続ける』ことを求められます。ですから日本酒で儲けることはとても難しい。日本酒は新規に参入してくるところも少ないですし、やめていかれるところも多いのです」と語る蔵主。日本酒で生計を立てることの厳しさがうかがえます
※清酒製造業の概況(平成30年度調査分)より作成。
この地域にも、かつて4軒の酒蔵が存在したそうです。しかし現在も残るのは西條合資会社のみ。「たとえ儲からなくても、あきらめずにやり続けること。そしたらエリアの市場を独占できるようになりますから」という蔵主の言葉が印象的でした。
蔵元でしか買えない限定酒
今回バウムクーヘンと一緒にお土産として購入したのが、この本醸造無濾過生原酒。蔵限定で買えるお酒の一つです。力強いラベルの文字は書家・榊莫山氏によるもの。
口に含むと天然の麹で作られた自然の炭酸ガスがシュワッとほとばしります。そして喉を通りスッと鼻に抜ける爽快感がたまりません。何だか麹の持つパワーを分けてもらったような気持ちになります。今はさまざまな食品に「生」が冠されていますが、「生酒」については、本当に「生きた酒」なんだなとしみじみ実感しました。
最後にご紹介するのは西條蔵の旧店舗。2004年に国の登録文化財に選ばれました。この旧店舗の修復が昨年終わったそう。これからここにどのような店舗が入るのか、現在は構想・交渉中とのこと。ここ奥河内の、そして日本酒の新しい名所が誕生しそうな予感がします。古いものを大切にしながら、新しいことにチャレンジし続ける西條合資会社。この令和時代にこの西條蔵旧店舗がどのような変貌をとげるのか、その取り組みから目が離せません。(Text:牧 美帆)
この記事の筆者
日本ツーリズム運営局(オフィスイチヤマ)
日本ツーリズムは日本酒に対する潜在的な需要を発掘すると共に、日本各地の蔵元さんとユーザーをつなぎ、日本酒で地方を元気に、そして日本を元気にして行くと共に、世界へ日本酒の魅力を発信していくことを目指して行きます。
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