〜プロローグ〜 日本酒の個性について考察する

日本酒はどんな酒か?

日本酒はどんな酒かヒトコトで言い表すとすれば、あなたは多分困ってしまうのではないだろうか?私にしてもそうだ。

日本酒の味わいとして甘いとか辛いとか表現される事もあるが、これは本質を表しているとは言えない、相対的なものだからだ。そもそも日本酒とは甘い酒です。あるいは辛い酒です。ってなんか変でしょう?

ワインだったらやはり原料のぶどうを感じさせる味がもともと有って、それがぶどう産地の土壌に根ざすミネラル分などと相まってアルコール発酵した結果、酸っぱかったり渋かったり、あるいは馥郁とした香りを放ったりといった広がりを持った味わいになっていると思う。個人的には。

ビールはやはり主な原料の種類や処理と副原料であるホップ、そして発酵のさせ方で基本的な味わいや飲み口が異なってくるんだろう。

では日本酒は?となると、原料は基本的に米しか使ってはいけない事に決まっているし、(ここでは醸造用アルコールや調味料類は考えに含めない)では米の味はと言うと、確かに比べれば違いはあるかもしれないが、それだけで味を大きく左右するレベルでは無いことは何となく理解してもらえると思う。ただ、味わいの基本としては、米と米麹を基にした何かがあると思う。ご飯とは違う味わいなのだが。

あらばしり

多くの蔵元さんを訪ね、そして色々な日本酒のイベントに参加して数多くの日本酒を味わってきたが、なかなか日本酒はこんなお酒だと説明するのは難しい。それは私の語彙が少ないだけではなく、香味の幅がかなり広いからと言っていいんじゃないかと思う。

一方で、日本酒は戦後のモノ不足の時代から、酒の味わいとして個性をあまり主張してこなかった時代も長くあった。スッキリ綺麗な酒や近年の淡麗辛口と言われる酒がそうで、食中酒として食事を邪魔せず美味しく飲めるのは良いのだが、これらの酒は大手酒造メーカーの抑えるところとなり、地方の中小の酒蔵がいくら良い品質の酒を造っても積極的に選ばれるはずもなく、せいぜいその地元で消費されるだけだから、それ以外の地域の人が口にする事はまず無いし、仮にあなたが、たまたまその地方へ行った時に口にしたとしても、たぶん記憶には残らなかっただろう。

変わってきた最近の日本酒

さてさて、前置きがずいぶん長くなってしまっが何が言いたいかと言うと、日本酒の味は基本的にこんなですと言うと、今いった大手酒造メーカーののベーシックな味わいがそうだとも言えるが、その一方で日本酒の香味の各要素、香りだったり酸味だったり旨味だったりという部分のどこかを特に際立たせて個性を主張する酒が近年、若い酒造家を中心に造られてきている様に思われるがどうだろうか。

若い世代の酒造家たちは、先ずは醸造技術を駆使していろんなタイプの酒を醸していった、そしてその動きは醸造に使用する米の品種特有の個性を生かした酒を醸す方向へと。

でもそれは極端な話、技術があって米が手に入ればどの蔵でも出来てしまうって言う事だとも言える。余程技術力の差が有れば話が変わってくるのは当然だが。

ただ、これらに取り組んでいる中で自身の蔵の強みを発見した蔵元もいた。特A地区の山田錦や備前の雄町を使うよりむしろ地元でしか栽培されていない米を使って造っていた酒の方が、差別化されて商品として魅力があったりする訳で、そこに活路を見出している。そんな蔵も増えて来ているのではないだろうか。

また最近では、蔵元が近隣の農家と契約して酒米を栽培してもらったり、更に進めて自ら酒米の栽培に取り組む蔵もだんだんと増えてきており、こういった動きを感じる事から原料米の精米にも興味を持ってきたわけです。

吉川町 山田錦

そして米作りを手掛ける酒造家

自家精米する蔵は結構ある。また、米作りに取り組む蔵も増えつつある。

しかし、米作りから精米、酒造りまで一貫して手掛ける蔵は知らないなという事に気が付いた矢先、たまたま姫路市酒造組合の日本酒イベントでお会いした「西海酒造」さんが米作りから精米まで一貫してお酒を造られている事を知った。

米作りは基本的にプロである農家が手掛けるのが普通だが、この蔵元は米作りもプロというか酒造りを知った上での米作りのプロであって、そこには自分の作った米を自分で精米するという、農家でも酒造家でもやらない事に長年取り組んでいる精米のプロであって酒造りのプロということなわけだ。

これはそれぞれの立場を有機的に理解するチャンスと思い、米作りから酒造りまでの一年間を取材させて頂きたいとお願いしたところ、幸運にも立ち会わせて頂けることになり、この密着レポートをスタートする事が出来るようになりました。 ( Text:山路日出夫)

この記事の筆者

日本ツーリズム運営局(オフィスイチヤマ)

日本ツーリズム運営局(オフィスイチヤマ)

日本ツーリズムは日本酒に対する潜在的な需要を発掘すると共に、日本各地の蔵元さんとユーザーをつなぎ、日本酒で地方を元気に、そして日本を元気にして行くと共に、世界へ日本酒の魅力を発信していくことを目指して行きます。
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