「お米を磨く」ってどういう事? 日本酒用精米機で有名な新中野工業さんを訪ねて伺ってきました! 【 後編 】
昔の精米方法
前回のコラムで紹介しました様に、明治時代半ばまでは主に人力による精米が行われていました。灘五郷など一部地域で水車精米で低い精米歩合(それでも現代の水準では標準的な70%程度です)のお酒を造る例はありましたが一般的とは言えなかったのです。その頃の精米は、人力にせよ水車を利用するにせよ、臼に玄米と石粉を混ぜで臼で搗くやり方で、現代の酒造用精米で使われている米を削る(磨く)タイプではありませんでした。
竪型精米機の開発
1896年(明治29年)に現在に続く精米機メーカーを興した佐竹利市氏が初の動力式精米機である連打式臼型搗米機を開発した時から機械による精米が始まりました。しかし未だ名前の通り、従来の臼で搗くタイプのままです。
その後同社において1908年(明治41年)に竪型精米機の原型になる竪型研削式精米機が開発されました。これによって初めて吟醸酒が生まれたと言われます。そして1930年(昭和5年)に現在の竪型精米機で使われる金剛ロールを使用した竪型精米機が開発され、40%の低精白歩合が可能になり現在に至っています。
新中野工業さんを訪問しました
現在では竪型精米機は、上で説明しました株式会社サタケと新中野工業株式会社の二社が製造していますが、この度、新中野工業工業さんへ訪問させて頂き、お話を伺ってきました。
新中野工業さんは精米機でも酒造用精米機とその関連設備を製造しています。また自社の精米機を使用した受託精米も行なっている、酒造用精米専業の会社です。受託精米ではその品質から全国の名だたる酒造会社から精米を受託されています。
工場は岡山市西大寺の本社及び岡山県玉野市、兵庫県の篠山市にあり、本社工場では精米機などの生産、玉野工場と兵庫工場では受託精米を行なっています。特に兵庫工場は山田錦の一大生産地に隣接しているので、山田錦専門の精米工場になっています。
竪型精米機とは何か?
竪型精米機とは文字通り縦方向にお米が送られて精米されるのですが、飯米の精米機と大きく異なるのは、ロールと云う砥石でお米の表面を削って精米する摩擦精米であるところです。飯米の精米機は粒々精米と言い、米と米の摩擦で精米を進める方式で光沢のある綺麗な表面に仕上がる反面高精白には向いていません。竪型精米機は削る時間や回数を変える事で、精米歩合や精米による米の形をコントロールする事ができます。
上の写真は昭和初期の竪型精米機ですが、構造は現代のものと基本的に同じです。じょうご形状の下の辺りにロールが入っていて、米が上から下りてきてここで表面が削られて行きます。
ロールの形は上のの様に重ね餅の様な形状になっていて、表面には金剛砂と呼ばれる研磨剤が付いています。なので、これを金剛砂ロールと言います。
酒米の精米は大変
酒米は一度に目標の精米歩合まで削ってしまうのではなく、何度も循環させて目標の精米歩合まで削って行きます。
例えば精米歩合50%まで削る場合、米の種類などにもよりますが300回くらい循環させるそうです。なので、所要時間も24時間~34時間位掛かる事になります。さらに精米さらに精米歩合を下げて35%まで削るとなると72時間も掛かるそうです。これは真中に心白があるため砕けやすくなるので、さらに時間がかかる為です。
お米を研磨して削ると言うことは、当然お米に負荷がかかる事になるので、一概に酒造好適米と言っても品種によっても高精白に適した品種とそうでない物があります。
酒造好適米には新白というデンプン質の粒密度の粗い部分が有りますこの心白の形状や大きさによっては精白が難しいものがあります。現在酒造好適米の代表とされる山田錦では線状心白なので米が砕け難く高精白に向いていますが、やはり酒造好適米として有名な雄町は心白が大きく高精白が難しく向いていませんが、全く出来ない訳では無く、時間をかけて慎重に精米を行えば可能ですが、大変な労力と技術が必要になります。
また、同じ品種のお米ならば同じ様に精米できる訳ではありません。精米する際にこの負荷に耐えられずに米が割れてしまう事があります。この様な米は形がバラバラで破米と言い、吸水がバラつくために通常はお酒の醸造には使用されません。ですから破米の割合が多いと同じ量の玄米から取れる白米の量が減ってしまいます。これは、稲を刈り取った後の乾燥などの処理のやり方によって大きく影響が出る事がわかっており、そのため有力な酒造米生産農家では稲の育成だけでは無く出荷までのもみの処理についても工夫を凝らしています。
新中野工業さんでは、酒造米生産者の方々に対してこの様なデータをセミナーなどで紹介し啓蒙するなどの活動に取り組まれているそうです。
日本酒はお米から造りますが、ただ米から造ると言うのではなく、この様にして優良な籾を高度な技術で精米した米を素材とする事で今、私たちは吟醸酒や大吟醸酒を楽しむ事ができる様になったという訳です。いかがでしたでしょうか?
新中野工業さんの受託精米では、籾の受け入れ異物の除去、酒造会社の要望に合わせた精米歩合や形状に精米し、不良米の選別などを行なった上で米の精米前後の分析値をつけて出荷されているそうです。
( Text:山路日出夫)
この記事の筆者
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