古酒のことを知りたくて、熟成古酒で知られる白木恒助商店へ伺ってきました!

古酒とは

お酒のラベルなどで良く「古酒」と書かれていることがあります。古酒と言うからには古いお酒?と思いがちですね。間違ってはいませんが、業界では前酒造年度以前に造られたお酒のことを意味しますが、皆さんがイメージする古酒と会っていますでしょうか?実は「古酒」にはこれ以上の明確な定義はありません。

ですから、古酒といっても1年超〜〇十年ものと幅が広く、見た目も香味も様々です。また、特に古酒と表記されていなくても、古酒をブレンドして商品化しているお酒も結構あります。

熟成の年月や方法にも依りますが、これらの特徴としては、褐色掛かった色や、熟成を感じるナッツの様な香り、カラメルの様な少し香ばしいまったりした感じの味わいなどを感じられることでしょうか。

この様に蔵元により様々な顔を見せる古酒は、偶然できるものなのか、それとも何か狙ってできる物なのか?この様な疑問を携えて、熟成古酒といえば「達磨正宗」と言われる、白木恒助商店へお話を伺いに行ってきました。

白木恒助商店店舗

熟成古酒とは

古酒を語る上で「熟成古酒」というお酒を耳にすることがありますが、「古酒」と何が違うのでしょうか?熟成と言うくらいだから、熟成期間の長い古酒のこと??

熟成古酒は、熟成古酒の復興と研究に取り組む長期熟成酒研究会が設定している定義で、「3年以上蔵元で熟成させた、糖類添加酒を除く清酒」とされています。ですから熟成古酒は、少なくとも三年以上熟成された清酒です。

達磨正宗熟成古酒3種類

達磨正宗の熟成古酒。左から3年、5年、10年。年を経るごとに色が赤く濃くなっています。

 

白木さんは、長期熟成酒研究会のメンバーですから、「熟成古酒」が各社各様で色の濃いものも淡いものもあり、香味も熟した感じの強いものからさらっとしたものまで色々あるが、なぜもっと絞り込んだ定義にしなかったのかとお聞きしたところ、日本酒は古来色々な造り方がありバラエティーに富んでいたはずだから、あえて縛っていないと言う答えでした。

 

 

古酒と達磨正宗

古酒造りに取組んだ6代目 白木善次さんに、古酒造りに取り組んだ経緯やご苦労された事などについてお話を伺いました。

白木さんは昭和40年代に酒造りを引き継ぐ事になったそうですが、この頃開催された東京オリンピックを機に、テレビでコマーシャルが流れる様になり、それと共に、元々地元の酒屋さんに置いていなかった、大手酒造メーカーの日本酒が並ぶ様になってきたそうです。

そのため大手酒造メーカーの日本酒に対抗するためには、地元の酒として何か個性が必要だと考える様になっていました。

同じように大手酒造メーカーの進出に懸念を持っていた他の蔵は、吟醸酒造りに取り組み始めましたが、白木さんには、吟醸酒が口に合わなかったこと、先祖代々甘口で味の濃い酒を造ってきたことを否定したくなかったこと、吟醸造りによる酒造りは農産品である日本酒なのに材料効率が悪い事や、新酒至上主義に対する疑問から、吟醸酒には行かなかったそうです。

そんなある日、たまたま蔵の片隅で古い一升瓶を見つけ、飲んでみたところ美味かったことが、その後古酒造りに情熱をかける事につながってゆきました。

こうした日々の中で白木さんは、東京農業大学の住之江金之先生や東京大学の坂口謹一郎先生の講義を聞きに行ったりしてました。そこでは、鎌倉時代に日蓮聖人が書き残した、人の血の様に赤い酒や、元禄時代に発刊された本朝食艦の、3〜5年で味が良くなり、8年以上で香りが良くなるという古酒の記述などの話を聞いたそうで、これがずっと頭の片隅にあったそうです。

そこで古酒を造ってみようと、造り方を調べる事にしたそうですが、資料になるものは全く残っていませんでした。

日蓮聖人が書き残していた赤い酒は、江戸時代までは続いたのですが、明治時代になり、日清戦争の戦費捻出のために清酒に造石税が課せられる様になると、酒造業者はリスクを避けるために課税後の清酒を早く出荷する様になり、熟成の文化が途絶えてしまっていたからです。

白木さんは、その様な状況で古酒の造り方が掴めないので、昭和46年から毎年色々な酒を3種類くらい造り、熟成してみる事にしました。

酒の熟成による変化を知るために、蒸留酒の熟成による変化や日本酒の熟成による変化などについて勉強し、その結果、赤い酒はアミノ酸と糖が反応して起こるメイラード反応によることがわかりました。

そうして、平成に入ってからは熟成の基になるお酒を純米酒に固定して、条件を少しずつ変えて試していきました。

古酒作りに取り組む中で困ったこととしては、酒を造るばかりで出荷しない(当然その分の売上は立たない)ので、周りの人からは変な目でみられたり、税務署からは早く出荷する様に促されたりもしたそうです。現代では酒税は出荷時に課税(蔵出し税)するので、清酒を造って出荷しないのは、税務署的には指導の対象になったのでしょうね。

昭和57年熟成酒

でも、最も困ったのは、こうしてせっかく出来上がった古酒ですが、色がついていることや通常の日本酒と異なる風味が、市場で中々受け入れられず、買ってもらえなかったことだそうでした。

しかしそのうちに、ワインの大家である山本博さんやソムリエの田崎真也さんに評価していたけるようになったことで、やっと世間で古酒が認められる様になり、その後、日本航空国際線ファーストクラスのドリンクメニューに採用されたうえ、通常3ヶ月のところ3年もメニューに載るまでになりました。

このようなメイラード反応による酒質が、最近の日本人の味覚に合う様になってきた。明治以来100年の空白があったが日本人の味覚からは消えておらず認められた事が、白木さんは感慨深かったと言います。

 

長期熟成古酒研究会

「長期熟成古酒研究会」の前身にあたる、「長期熟成酒研究会」ができたのは、吟醸酒協会発足と同時期に当たる、1985年のことです。白木さんのお話では、当時既に古酒を持っていた白木さんの様な蔵元と、熟成酒のポテンシャルに期待を寄せる蔵元が一緒になって、熟成酒(古酒)の研究をしようと集まったのが始まりだそうです。

白木さんの達磨正宗のほか、現在でも長期熟成酒研究会会員の福光屋さんなど5件の酒造会社と、三樂オーシャンにいらした本郷さんと言う方が事務局となり発足しました。

最盛期には70社もの酒造会社が加わっていた様ですが、売上の期待に沿わないと判断した会社や、清酒需要自体が低迷する中で経営的に断念するなどで撤退した会社も多く、現時点の(2022年4月18日現在)会員酒造会社は、25社となっています。

発足当時、メンバーの酒造会社で手持ちの古酒を集めてみると、達磨政宗の様な色の濃いものから吟醸酒ベースの色の淡いものまで幅広く、むしろ色の淡いものが多かったそうで、そこから、ワインみたいに内容が偏らない、色々なものがあっても良いんじゃ無いかと言うことになったそうです。

ですから、長期熟成酒研究会が認定する「熟成古酒」は、「満3年以上蔵元で熟成させた、糖類添加酒を除く清酒」というゆるい(?)定義になったそうです。

このレポートの一番最初に、筆者が持った疑問「蔵元により様々な顔を見せる古酒は、偶然できるものなのか、それとも何か狙ってできる物なのか?」は、結局、蔵元の考えによって、どちらもあり。という結論でした。。。

 

達磨正宗の古酒

熟成古酒は、上で紹介した様に造り方の縛りがゆるいため幅広く、偶然できたもの。そう、白木さんがずっと昔に偶然蔵の片隅で見つけたものの様なものも、定義上熟成古酒には含まれますが、達磨政宗では、昭和46年から熟成を重ねてきた原酒のほか、一定の仕込み仕様を決めた上で少しづつ内容を変えて熟成した原酒、そして、仕込み仕様を確立してからの原酒が数多く貯蔵されています。

現在では6代目の白木(善次)さんから、白木寿(ひとし)さんが杜氏を引継いで、古酒造りに取り組んでいます。

仕込みの仕様は、酸の成分が時間が経っても違いが残るので速醸酛で酛をつくり、色や特徴が出しやすい純米酒を醸します。使用する原料米は、近年では地元の日本晴れを使用しています。

醸造方法は独特で、通常の3段掛けに麹甘酒と酒母を加える5段掛けで醸造し、炭ろ過しないで清酒を造り、これを熟成の原酒としています。

熟成は、10〜20年はタンクで、それ以降は一升瓶で熟成します。熟成に使用しているタンクは80本くらいあるそうです。

白木恒助商店熟成蔵内部

白木恒助商店の熟成蔵の中には、数え切れないほどの熟成用タンクが並んでいます。

 

瓶熟成コンテナ内部

タンク熟成の後、瓶詰めされた古酒は蔵の裏に置かれたコンテナで更に熟成を重ねてゆきます。

 

製品化する際には、これらの原酒をブレンドするのですが、商品名で例えば10年古酒とあれば、ブレンドしている最も新しい原酒が10年熟成古酒という事です。他に、ビンテージとしてその熟成年の物ものや、赤ちゃんの時に仕込んだお酒を、二十歳になった時に出荷する「未来へ」といった商品もあります。

白木恒助商店店舗内部

店舗内の壁面にずらりとビンテージの古酒が並んでいる様は圧巻。

 

現在の蔵元の白木滋里さんは、達磨政宗は地域を大切にして貢献してゆきたい。そして、ワクワクして飲みたくなる様な夢のあるお酒を、古酒をベースにチャレンジして楽しんで行きたいと言います。

日本酒の古い伝統を復活させた達磨政宗の、未来へのチャレンジも目が離せそうにありません。

(Text : 山路日出夫)

この記事の筆者

日本ツーリズム運営局(オフィスイチヤマ)

日本ツーリズム運営局(オフィスイチヤマ)

日本ツーリズムは日本酒に対する潜在的な需要を発掘すると共に、日本各地の蔵元さんとユーザーをつなぎ、日本酒で地方を元気に、そして日本を元気にして行くと共に、世界へ日本酒の魅力を発信していくことを目指して行きます。
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